11人が本棚に入れています
本棚に追加
/65ページ
あのジェットコースターのような夏の出来事から数ヶ月。
仕事はなんとかこなし、また1日1日をサーキットトレーニングのように規則正しく積み重ねていた。
そんなとき、久しぶりに幼なじみの純が東京にでてくると言うので、夜会うことになった。
純はあの夏の高校野球が終わった後、大学のスカウトの目に止まり、中堅の大学に進み、今では田舎で教師をしながら野球を教えている。
結婚もして、子供も2人・・・奥さんも器量よし。
絵に描いたような理想的な家族だ。
オレが店に行くと、もう純は来ていて1人で飲み始めていた。
・・・気のせいか?背中が寂しく見える。
「悪いな、少し遅れたか・・・」
「いや、オレが早かったんだ」
「純・・・オレの気のせいならいいんだけど・・・なんかあったか?」
「・・・さすが、恭。ごまかせねぇな」
「その話がしたくてわざわざ東京にきたんだろ?」
「・・・・・・」
純はフッと視線を落とした。
純と同じ生ビールを頼み、少し遠慮がちにグラスを合わせた。
「・・・で?」
「・・・でって、簡単に話せる内容ではないな」
ーそんなに込み入ってるのか・・・。
なんかオレまで気分が滅入ってくる。
「...加奈がさ、別れたいって」
・・・?!!
「どうして・・・あんなに仲良かったじゃないか!」
「まぁ・・・大きな原因はすれ違いなんだろうけど、決定的だったのは、子供の中学校の試験の最終面接が親子面接で、よくありがちだけど、その日は顧問してる野球部の試合で、オレはそっちの試合を優先しちゃったわけ」
「・・・確かにありがちだな・・・で?」
「・・・で?って?」
「そんだけじゃないんだろ、隠すな!」
「・・・ったく、長く幼なじみは、やるもんじゃねぇな」
「お前がオレの癖がわかるように、オレだってわかるよ、お前ほどじゃないけど」
「・・・かなわないな・・・ご推察通り、女だ」
「は?お前、加奈ちゃん一筋だったじゃないか」
「恭、勘違いすんな。オレは加奈一筋だ。それは今も変わらない」
「んじゃ、なんなんだよ」
ーなんでも、純は全く浮気とかそんなことをしたわけでなく、女の人と少し話をしていたところを加奈ちゃんに見られて、それからギクシャクしているらしいー要約すると・・・。
「・・・お前のせいだ」
「はっ!!?」
「奈美・・・覚えてるか?」
・・・奈美・・・。
・・・おとなしくて、可愛い感じの子だった・・・。中学の頃、亜弥の親友をオレが好きだと噂が流れ、少しドタバタした、その親友と言うのが奈美だった。ただそれ以上も、それ以下もなくて、言葉通り噂だけが、先行したのみだったはず。
最初のコメントを投稿しよう!