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「あっちぃなぁ・・・このまま帰ってシャワー浴びてぇなぁ」
「恭!終わったら好きなだけ浴びていいから、もう少しがんばれ」
小学校からの幼馴染みの純がオレを励ます
「なぁ純・・・今日の温度は一体何度まで上がるんだ?溶けちゃうよ。ここ日陰もないしさ」
「知らね~よ、そんなもん。マウンドに日陰なんてあるわけないだろ。グダグダ言ってないであと1イニングしっかり頼むぞ」
「・・・へいへい」
高校3年の夏の甲子園、県予選の準決勝におれたちは駒を進めていた。
オレの行っていた高校は野球部がなく、2年のとき成り行きで野球部を立ち上げた経緯がある。
その時に一緒に尽力してくれたのが、先の会話の主、小学校からの幼馴染みでバッテリーを組んでいるキャッチャーの坂城 純だ。
初出場で県予選の準決勝までこれたなんて、奇跡以外の何ものでもなかった。
必死に三年間ボールを追いかけた球児に申し訳なく思ったりする。
そんなミラクルに乗じてその年の初出場校がオレの高校だけだったこともあり、地方のテレビ局、新聞各社がこぞって取り上げてくれた。
音信不通だった人達とも連絡がつき、一時オレの身の回りは騒がしくなった。
・・・もうそろそろ運も使いきったかなぁ。
なんてことが頭をよぎる。
甲子園予選、準決勝、スコアは0-0 9回裏、2アウト2塁・・・一打サヨナラの場面、相手のバッターは3番。
無風状態のマウンド上、影はオレの足元にへばりついたように動かない。
センターを見れば陽炎が見えるような錯覚すらある。
センターポールの旗さえも自力で、なびくことが出来ず、だらしなく垂れ下がっている。
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