夏のいたずら

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「んじゃぁ・・・いきますか」胸の前でグラブにボールを合わせ、一つ息をはく。 上空を見上げると、落ちてきそうな青空・・・。 (押し潰されてたまるかっての) 足元をならし、プレートに足をかけ、踏み鳴らすようにセットポジションに入る。一瞬の静寂の後、足を上げ、腰をたたみながら地面スレスレからボールをリリースする。 ボールの軌跡は横にスライドしながら、ボール2つ分外角に外れる。 高校3年の春からアンダースローに変え、ようやく馴染みつつあった。 そして、オレの体感に合っているらしく、ここまで勝ち進むことにも繋がった。ただ体には相当の負担になっている、膝、腰、肘と痛む部位が日に日に増えた。 第2球・・・インコースを狙ったストレート。 アンダースロー特有のホップするボール・・・投げた瞬間コントロールした自信はあった。 バッターも始動している。(よし‼そこからホップ!) カッキーン!! バッと振り返る・・・ボールはオレの意図しない緑色の芝の上を転がっていた。 仲間がそのボールを必死に追っている。 純がそこに立ちすくむ。 ・・・ホップしなかった・・・。 ・・・なんで・・・? そこからは、あまり記憶がない。 誰かに背中をさすられたり、肩を抱えられたり・・・そんな感触だけ残ってる 。そして純からボールを受け取った。多分サヨナラ敗けのボール。 なぜ受け取ったのかわからないし、純がなぜオレに渡したのかもわからない。 ・・・あれから24回夏がきても、まだそのボールを持ってる。 純に理由も聞けずに。 ・・・こうしてオレの高校の夏が終わった。 ・・・そんな夏とは比べものにならない、湿気が多く、気持ちまで萎えさせる、東京のマイナスの夏。 暑いのに心は寒い、こんな都会に、拠り所を見いだしたのは、田舎まで街道が繋がっているというだけで、住むのに選んだ。 遥か昔・・・宿場街として栄えた街。 生まれたところに道が繋がっているというだけで、ここに拘った。
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