過去は捨てていくモノ

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「そーですか。ありがとう」 「いいえ」  ゆりは教えられた通り白紙の名札を2つ手に取り、ひとつをあたしに寄越した。 「どこ座る?」 「どこでも……」  あたしに主導権なんてある筈もなく、ゆりはそっか……と頷くときょろきょろと見回し、ドアと奥の席のちょうど中間に腰を下ろした。その隣にあたしも座る。  すると、ゆりがスーハースーハーと深呼吸を始めた。 「どうしたの」 「いや、緊張してきた……」 「やめてよ、うつっちゃう」  だって……と言いながらゆりはかぶりを振った。心なしか、その顔が少し赤い。  あたしはそれを見てクスッと笑いながら、席の前に置かれている紙を手に取った。 【文芸葦原】っていうのはわりと古くからある小説雑誌だ。本格小説がたくさん載せられている。それでいてこの雑誌は新人発掘にも積極的らしく、若い人にもよく売れている。  ゆりはこの雑誌を買ってこのイベントのことを知り、懸賞に応募したようだった。 【DIVA】はちょうどあたし達くらいの年齢の女性をターゲットにしたファッション誌だ。 .
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