15175人が本棚に入れています
本棚に追加
目の中でコンタクトがぐるぐると泳いでいるのが判る。
でも、どうして奥に戻ろうとするの。ぺろっと、出てきてくれればそれでいいのに。
色んな痛みと感情で頭の中がぐちゃぐちゃだ。
それに平常心をすっかり奪われて、更に違う涙があたしの目から零れ落ちた時のことだった。
「……大丈夫か?」
少し鼻にかかったような、ぐっとハスキーで低い声が頭の上から落ちてきた。
男の人だとすぐに判ったけど、よけい戸惑ってしまう。
こんな街中で若い女が泣いてるからって、誰かに声をかけられるなんてあるわけないって思ってたから。
すぐに返事を出来ずに立ち尽くしていると、男の人は溜め息をついた。
「どっか痛いの。誰かに何かされたの」
ぶっきらぼうに訊かれる。
どうやら、空気を読んで立ち去ってくれるという気はないようだ。
ぶんぶんと首を横に振ると、目の前の人があたしの顔を覗き込む気配。
コンタクトの痛みのせいで、ほとんど目が開けられなくて、どんな人なのかまったく判らなかった。
おまけにあたしは超がつくほどのど近眼だし。
眼鏡かコンタクトがないと、たぶん外へ出てはいけないレベル。
「あ、あの、コンタクトが……」
「ああ、ずれた?」
.
最初のコメントを投稿しよう!