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一瞬で察してくれたらしいその人は、原因がそれと判ってホッとしたのかクスクスと笑い出した。
「あるよなあ。痛いだろ。見える?」
「み、見えません」
「近くに、コンビニあるけど。そこのトイレで間に合うか?」
愛想のない声だけど、あたしを気遣ってくれているのが判る。
思わず無言でこくこくと何度も頷いてしまった。
すると、ふっと頭上でその人が笑った気配がした。
「ん。じゃあちょっと失礼」
「え?」
言うが早いか、その人はあたしの手をパシンと掴むと自分の方に引き寄せ、ゆっくりと歩き出した。
「足元、気をつけな」
嫌悪感を刺激しないその触れ方で、わけもなくいい人だ……と思った。
「は、はい……」
目を開けられない状態で、手探りでその人の袖を軽く掴んだ。
親切にしてくれるのは表向きだけで、実は下心があるんじゃ……なんて、疑おうと思えばいくらでもできた。
だけど不思議なことにそういう疑いがちっとも過ぎらなかったばかりか、この人はそういう人じゃないとさえ思えた。
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