過去は捨てていくモノ

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 コンビニのトイレは思ったよりきれいで、衛生的な心配をする必要がなくて助かった。  洗面台の前にちゃんと鏡があって、荷物を置く場所もあった。  涙をこすり過ぎて赤く腫れ上がった頬を気にしつつ、目薬を出して目を何度も潤す。  すると、驚く程簡単にコンタクトは瞼の間に現れた。  現れたコンタクトは目の中で何度も行き来したせいで、裏返ってしまっていた。痛かったのは、このせいだ。  とりあえず水でコンタクトの両面をすすぎ、目薬で何度も浸した。  ようやくコンタクトがちゃんと収まった目は少し赤くなっていたけど、さっきの瞼の裏側に張り付いて離れない状態よりは全然いい。  そこであたしは、目の前のハンカチにハッと気付く。  手を引かれながら、さっきの人に差し出されたものだった。  鏡を覗きながら何度も瞬きをして、コンタクトがちゃんと安定しているのを確かめると、あたしは慌ててトイレを出た。  けれど、店内にさっきの男の人らしい人はいなかった。  赤くなっている顔を押さえながらレジの店員さんに訊ねてみたが、「慌てて外に出て行かれましたよ」と愛想のない返事が返ってきた。  コンビニを出てそれらしい人を探そうとしたが、姿をちゃんと見ていないのだから見つけられる筈がない。  あたしは手の中のハンカチを見つめ、途方に暮れた。 .
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