誕生日

2/7
前へ
/7ページ
次へ
 オレンジ色の暖かな灯火がケーキの上で歳の数だけ揺らめく。それを一気に吹き消すと、拍手で溢れる。この日ばかりは誰もが主役。 「今日、和仁(カズヒト)、誕生日だよね?」  はっと、思い出したように言ったのは、博美(ヒロミ)。なんの偶然か、博美と僕は同じ誕生日だ。最近、クラスが一緒になり、その事実を知った。クラスでは一番仲がいい女子だ。 「うん。博美も誕生日だよね?」  博美の問いかけに、返事を返す。  誕生日。僕は素直に喜ぶことができない。 「じゃぁ、私の方が先に言うね。誕生日おめで……」  僕は博美の口を手で塞いだ。突然、お祝いの言葉を遮られ口を抑えられた博美はきょとんとする。 「ごめん。まだ、お祝いの言葉は言わないで」  僕はそっと博美の口から手を離すと呟いた。 「なんで?お互いまだ、誕生日が祝えないなんて、歳じゃないじゃん?」  博美が無邪気な笑顔で言う。 「誕生日、うれしい?」  僕は博美に問いかけた。 「ん?そりゃ、うれしいよ。みんなにおめでとうって言われて、なんてったって、プレゼントもらえるじゃん?」  博美が答える。僕は博美の言葉を考える。 「そっか。そうだよね」  ぜんぜん、博美の答えは間違えじゃないし、クラスメート十人に聞いたら、十人がそう答えると思う。きっと、僕もみんなと同じように生まれて、みんなと同じ環境で育っていたら、きっと、同じようにおめでとうと言われて、何の疑問もなくプレゼントを貰って、喜んでいたと思う。でも、それが本当に誕生日ってモノなのかな?
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加