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僕が中学に進学して初めて迎えた誕生日。父親は、毎年くれる誕生日プレゼントの変わりに一通の手紙を僕によこした。
その手紙は大切に保存してあったのであろう、時間の劣化を全く感じさせない、真新しい純白の封筒。だから、僕は封筒の中身を開くまで、その手紙がなにか、全く気が付かなかった。
和仁へ
この手紙を読んでいるということは、中学校に入学したんだね。おめでとう。そして、誕生日おめでとう。中学生の和仁は、制服をビシッと決めてかっこいいんだろうな。
今の和仁なら、きっと、もう、死の意味、わかるよね?ごめんね。お母さん、和仁のお母さんをできなくて。
お母さんからの手紙。
お母さんは僕を産んで、僕を産むために命を落とした。命を産むために命を落とした。僕は産まれてきてよかったのかな?
死の意味、そして手紙の意味がわかる頃に、この手紙を渡すように父親に頼んであったらしい。僕は夢中で母が書いた字を一文字一文字、追いかけた。同じ部分を何度も何度も読み返し、自分の中に焼き付けた。そして、とうとう、最後の一枚。
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