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もう10時過ぎなのに。
週末の千鳥ヶ淵にはまだまばらに夜桜を観てる人達が居て。
驚くくらい誰も俺達のことに気づかないから。
颯君に預けた手を引かれるまま、桜並木を歩きながら上を仰いで眺めてる。
名残も惜しまずはらはらと、強い風に舞う薄い花びらは、
一体何処へ消えていくんだろう。
「なぁ…颯君。こんなに風が強いと、桜もすぐ散っちゃうかな?」
――こんなに綺麗に咲き誇ってるのに。
「そうだね。桜の花って『はかない』、って言葉が似合うよね。『儚い』って人の夢って書くでしょ?ホントにこの短い時期だけ、人は桜に夢を見させられてるのかもしれないよ?」
――どうして桜は散り急ぐの?
「じゃあさ…。こうやって俺が颯君と手を繋いで歩いてるのも。こんなに沢山の桜に見せられてる、夢?」
「そうだったら――サトリ君、どうする?」
俺は急に怖くなって。
颯君と絡めた指に力をこめた。
立ち止まって。
これは夢じゃないってちゃんと安心してから。
「ホントはそんなこと考えたくも無いけど。――俺、夢でも今日の事、絶対に忘れないからな?」
颯君は急に俺が立ち竦んでそんなことを言い出すから。
ちょっとびっくりしてたけど。
「ありがとうサトリ君。俺もきっと、――忘れないよ?」
ちゃんと颯君とココロも繋がってるって。俺は気付いたから。
そのまま暫く黙って二人で歩いたけど。
今度はさっきみたいに気まずいとは思わなかった。
「――サトリ君。俺ね…こないだいい花見の場所見つけたんだ」
公園の中はもう人の気配は居なかったけれど、颯君はその中を更に進んでいった。
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