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あの日の事故。俺はマネージャーから聞いて知った。
アイツが忙しいのは解ってたから。
慌ててかけたケータイが繋がったとき。
『ニノ!大丈夫か…?』
なんて聞く方が間違ってるってことも解ってたけど。
俺にはそれしか言葉が見つからなかったんだ。
ニノはただひとこと。
『ゴメン…』
――たった一言で電話を切られた。
多分、誰とも話したくなかったんだと思うけれど。
突然俺とニノの間に、見えない壁ができたのかと思った。
何もしてやれない自分が、もどかしい。
だから最近は。
『負けるな!君はきっと上手くいく』
ってCMでいつも言ってるアイツに、
「お前こそ負けんなよ」
って独り言返してる。
楽屋でたまたま流れてたそのCMにまた話しかけてるのを、
しまった…。
颯君に聞かれてた。
新聞読んでた颯君は、びっくりしたように顔を上げたけど。
「コノルン――そんなトコで練習してないで。直接言ってあげればいいのに」
ちょっと困ったように首を傾げて、眉を寄せて笑うから。
豆柴みたい。
「――直ぐ電話したのに。俺言い損ねたんだよ…」
俺は珍しく素直に白状した。
お?って、耳をぴくっとさせた豆柴颯君は、丁寧に新聞を畳んでテーブルの隅に重ねてから、
俺と話すためなのか背筋を伸ばして。右手を俺に向かって差し出してきた。
「さ。座って座って」
お兄さんに話してみなさい?って言葉が聞こえてきそうな椅子の勧め方をする。
こういうところ、真面目だよな。
仕方なく促されるまま座った俺は。
豆柴兄さんに最近思うことを素直に話してみた。
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