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ルン君が電話をくれた時。
俺は。
靴音を響かせながら忙しそうに廊下を右へ左へ通り過ぎる大勢のスタッフをただ眺めてた。
――今日は色々ありすぎた。
何も無かったフリなんか出来ないから。オールスタッフに説明して謝って。
仕事にプライベート持ち込まないようにして、切り替えて集中して熟す。
「一旦チェックと休憩入れましょう」
声をかけられて、張り詰めてた気持は、急に呪縛が解けたみたいに途切れた。
打ち合わせの合間の休憩中。一人で廊下の長椅子に座ってたから、身体に伝わるケータイの震動に、直ぐに応答できた。
――でも、
「ニノ」
って、ルン君の声を聞いただけで。
泣けちゃうくらい嬉しくて、マトモに話せそうもなかった。
一人きりじゃないんだってことを急に思い出して。
涙声を周りに気付かれたくないから。
「ごめん」
ってだけ言って切った。
感じ悪いよね…。俺だったら多分激怒するよこんな切られ方。
俺も社会人だから、自分のしたことに責任取る覚悟はあるけれど。
――不安で。怖くて。
怪我した相手にも、迷惑かけた皆にも凄く申し訳なくて。
電話の、
ルン君の声。
『――大丈夫か?』
あんなに切羽詰ってた。
全然。
俺、全然大丈夫じゃないよ。
でも、傍に居てなんて言えない。
ルン君が俺のことで悩んだり苦しんだりするの見るほうが。
もっと俺、大丈夫じゃなくなるから。
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