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「遅ぇぞルン!」
って言うリーダーと颯君は、
玄関へ来たらそそくさと靴を履き始めた。
「お邪魔しました~」
帰ろうとする二人を引き止めて、俺は片方の箱を颯君に手渡した。
「あ。コレ。二人にも」
「もしかして。こないだのアレ?」
「そ。出来立て」
「やった!アリガト~!!」
多分ニノには全く謎の会話を繰り広げた後に。
「ニノ。コレが。颯君と俺からのプレゼント、な?」
リーダーが黄色いスーツの懐かしすぎるアノ人みたいに両手で俺の事指差しながら後歩きで去っていくから。
苦笑いするしかない。
「アハハ。俺からもおめでとう。あーんどお休み~」
颯君もリーダーを追いかけてエレベーターホールに消えてった。
恥ずかしくて、ちょっと素っ気無い声で俺は、
「――おい。入れてくれないのかよ」
ってニノに言ったら。
「あ…。うん。どうぞ」
って、迎え入れてくれるけど。
ちょっとまだ心に距離感。
「とりあえず――コレ」
こないだ焼いたら、リーダーと颯君に好評だったから。
一緒に食おうと思ってさ。
って、手渡したら。
「コーヒーがいいかな」
ゲームを置いたままの居間のソファーに座って箱を開いたら。
キャラメリーゼした林檎が沢山載ってるタルトが入ってて。ちょっとニノもびっくりしてる。
俺は形を崩さないように慎重にナイフを入れて、ケーキサーバーで皿にとったら。
「どうぞ」
って。ニノの目の前に差し出した。
フォークを手に取って、タルトの上のカラメル色した果物を口に含んだら。
「――甘い…」
そうだよ。
だって。
罪の果実でつくられてるんだぞ?
林檎の甘酸っぱい香りとほろ苦いカラメルの味で酔いそうなそのデザートの名は。
――タルトタタン。
口に運ぶほどに。心まで融けそうになるから。
そうなって欲しいって願って。ニノが少しずつ食べてるのを、祈りながら眺めた。
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