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甘くてほろ苦い、って。
ルン君みたいな。タルトタタン。
すっごく美味しいよ?美味しいけど…。
「いいのかな…」
ぽつり。って俺が呟いたら。
「――何が?」
ルン君が少し不満そうな顔。
でもやっぱり…。
「やっぱりさ――こんな気持で自分だけお祝いなんて…」
撮影所で。スタジオで。
誕生日が近いからと祝ってくれるスタッフや共演者の前で、
苦笑いして素直に「有難う」って言えなくなってた。
「――痛みそのものはどうしたって傷と一緒に消えてくんだ。大事なのは、痛みの記憶を、忘れないことだろ。」
忘却こそが
――本当の、罪。
「俺も一緒に。――ずっと一緒にニノの痛みの記憶、覚えて置くから」
だから、って。
「プレゼントなくても――ニノの産まれた日だけは。ちゃんと一緒に、祝わせろよ」
ルン君の視線に促されて、見上げた壁の時計は。
何時の間にか。午前零時を回ってた。
――6月17日。
産まれた時間は違うけれど。
この瞬間。一つ年を重ねたみたいに感じる。
ルン君は満足そうに笑いながら。
「今年も俺が、一番乗りだ」
おめでとう、ニノ。って、
俺が好きな、背中越しのハグをくれる。
「ニノだけじゃなくて。ニノを支えてくれてる皆に。今日は沢山の幸せが届きますように」
それならば、お願いだから。
「俺――ルン君に一番。幸せになってほしい」
何?って。
「俺今。誰よりも幸せなヤツだと思うけど」
「ホント?」
「嘘ついてどうすんだよ」
「――じゃあもっと。幸せにしてあげる」
つう、って。抱き締めてくれてる腕に指を滑らせて手首を掴んだら。俺のシャツの下に誘う。
「だから、ね?」
「――おい…今日、8時の新幹線で京都だろ!?」
ダメだ!って。
珍しく俺のおねだりを拒むルン君の焦った声が可愛くて。
俺だって我慢してるのに、って耳元で聞こえるルン君の声。
「あと8時間もあるでしょ?俺は…新幹線で2時間眠れば大丈夫。あとはルン君と居たいの。それとも、俺とするの、ヤなの?」
「その質問ズルいぞ!」
俺がヤダって言う訳ねえだろ!
ってまた逆ギレするのは照れてるからだって解るから、可愛い。
「解った。じゃ。一緒にお風呂、入っちゃお?」
時間が無いからね。
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