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東京駅朝8時発の新幹線。
平日朝のグリーン車だからホームに人は思うほど居ない。
見送りに来た俺は、引いてきたスーツケースをニノに手渡した。
「ゴメンねルン君。まだ眠れたのに送って貰っちゃって」
ニノは明け方まで何度も俺に逝かされ続けて。絶対疲れてるはずなのに、何故か俺の心配ばかりする。
「そこはゴメンじゃなくて、アリガトーだろ?…っていうかむしろヤりすぎだって怒るべきだろ」
って、頭を撫でたら。
「怒ってなんてないのに…。ルン君。アリガト」
って俯きながらはにかんで言うのが可愛いすぎる。
たった1日手放すのも惜しいなんて思う俺はかなり重症だ。
って、すんなりした黒髪の感触から手を離したくなくて苦笑いしてたら。
「――?」
ニノが怪訝な顔で俺を見上げるから、思わず退けた手をバイバイとそのまま誤魔化すように振った。
「行ってらっしゃい」
もう一度触れたい。
なんて思う俺の気持ちを嘲笑うみたいに、発車のベルが鳴る。
「おい、遅れるぞ」
「あ。うん」
荷物を慌ててドアの中に放り込んだニノは。
俺のところに飛び込むみたいに戻ってきて少し爪先立ちしたら。
驚いて半開きになった俺の唇をキスで塞いできた。
ベルが鳴り終わって、発車を促すアナウンスが聞こえるけど、混乱してる俺には何言ってるのか意味なんか不明で。
満足したのかまた飛び込むみたいに車両に乗り込んだニノは振り返って。
満足そうな笑顔。
「んふふっ。舌まで入れちゃった~」
ドアの閉まり際に、なんて捨て台詞だよ。
でも全然怒る気はしなくて。何ていうか…。
甘くて。くすぐったい感じ。
口元が緩むのが解る。
「――ヤバイ」
コレはまさか。颯君達と同じ病を感染されたか?
もう二人の事をバカップルなんて冷やかせそうもない。
滑るように走り始めた車両の窓から、ニノが小さくバイバイ、って手を振ってるのが見えた。
「あぁ~あ、俺もいよいよ、末期だな…」
でも、このまま何処までも堕ちてもいいや、って思う。
何も要らない。
――ただ。
帰ってきたらまた今日みたいに。
――俺が欲しいって、言ってくれたら、それでいいや。
(了)
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