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銀座にあるその専門店。
ホロホロ鳥はキジ科って言われてたから、イメージで何となく脂が乗ってるのかと思ったら。思ってたより淡泊で、あっさりしてる。
確かに鴨より鶏肉に近いかも。
コース料理にはアイダさんの大好きな唐揚げが入ってなかったから、わざわざ単品で注文した。
「――ニノが雉とかいうから…、もっと何か野鳥っぽいのかなって思ってた」
予想通り自分の分をあっという間に平らげて、俺やニノから大人気なく唐揚を分けて貰ったアイダさんは、ご機嫌でもぐもぐしながら、また感覚喋りを炸裂させた。
「野鳥ぽいって!どんな味ですか一体?」
そこらへんに居る鳥ってコトですか!?失礼ですよ。ホロホロ鳥に謝んなさいよ!なんてニノがツッコミを入れて。
「何かこうさ…ええっと――んもう!ニノ解んないの?」
言葉で説明するのを諦めたアイダさんは、何時もみたいにキレてる。
「わっかんないですよ!っていうか、アイダさんの考える事なんか理解できなくていいですよ!」
あーあー。また始めたよアイダVSニノマエ、答えの出ない不毛な言い争い対決。
食事静かにしたいから。此処は俺が。
「俺は何となく…」
アイダさんの言うこと解らないでもないな、って言いながら、二身揚げに箸をつけた。
「え?――めずらしくアイダさんの味方するんですかルン君」
「ホロホロ鳥って俺も初めてだけどさ。飛ばない鳥で意外にあっさり、って。鶏に似てるだろ」
『野鳥っぽくない』んじゃなくて『鶏に近い』ってコトじゃないの?アイダさん、って聞いたら。
「そうそう、俺そういうコトが言いたかったの!ルン君大正解!さっすが名探偵!!」
って。――どこかの誰かから聞いたことある台詞をご機嫌な笑顔で言いながら、アイダさんは箸の先でびし、って俺のコト指し示したから。
「いいオトナが箸で人指すな。――あのさあ。思ったならちゃんとコトバで表現できるように頑張れよ、アイダさん」
って何時もみたいに説教した俺は、また噛み付かれると思ったのに。
――ふ、って。
アイダさんの表情から。笑顔が一瞬消えて。直ぐにまた、大きく口を開けてアハハ、そうだねって笑いながら、最後の唐揚げを箸に挟んでる。
テーブル挟んで差し向かってた俺だけじゃなくて。
アイダさんの隣に居るニノも、敏感にその一瞬の間を感じ取って。
何か企んでる顔でんふふ、って含み笑いしてるのに気づいたのはどうも俺だけだ。
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