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霧雨に煙って、限りなく続くように見える蒼い蒼い紫陽花の花に囲まれている小道を、
葉に落ちた雨の雫を払うように進んだら。
「――あ。ちょっと待って」
いい角度で五重塔が霧の中から姿を現したから、俺はデジカメを構えようと立ち止まった。
「――」
コノルンは黙って俺の傍に来て。俺の傘の柄を持ってくれるから。
「あ…アリガト」
こういうところマメだなあ、って。また感心する。
俺がシャッター押すのに飽きるまで付き合ってくれるのが嬉しい。
都心からそう遠くないところに、『紫陽花寺』って呼ばれてるところは少なくない。
都心から小一時間電車で東北東に進んだところにある名刹に、
「雨だから出かけよう?」って俺が誘ったのは。コノルン。
何故か雨の朝だと、コノルンを思い出すんだ、なんて言ったら、きっと気分を悪くするだろうけど。俺の感覚なんだから仕方ないよな。
あの容姿だし何しても絶対バレるから、普段なら絶対車以外での移動は嫌がるけれど。
今日は何故か黙って、付いて来てくれた。
開き直って隠さなかったのが返ってよかったみたいだ。
平日のラッシュを過ぎた私鉄の下り電車に乗る人はまばら。 俺達の乗った車両には10人も居なかったから。
ボックス席に腰掛けて、外を眺めながら、たまにはいいよね、って話してたのに。
「――着いたぞ颯君」
結局俺は目的の駅に着いてコノルンに肩を揺さぶられるまで、窓に寄りかかって寝てた。
「ご…ゴメン」
「いいって。ホラ。傘忘れんなよ」
うわ…、言われた傍から忘れて降りそうになってる俺に。
「しょうがねえなあ」
って苦笑いしてる。
雨の日の不安な気持。
コノルンと一緒に居るとどうして和らぐ気がするんだろう。
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