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どういうつもりで俺のことを誘ったかなんて、この際どうでも良かった。
大した理由が颯君の中に無いなら。俺も隣に居られることを単純に喜べばいいのかと開き直った。
貴重な休みの日だったから。ホントは家で休むべきだったんだろうけど。
雨の日の朝の突然の電話。
俺はただ反射的に、
「いいよ」
って返事をしてた。
人気のない紫陽花の小道は。
何処までも青と緑の壁が続いているようで。
傘を差すと一人が通るのがやっとだ。
『少し寒いな…』
梅雨寒で湿った空気は肌に絡みつくようで、この時期に出歩くのは正直余り好きじゃない。
テンション低めの俺とは逆に、差した傘をご機嫌な様子で肩の上でゆっくりと回しながら俺の前を歩く颯君は。
「今育てられてる紫陽花って、もともと日本の原種を改良したもので。学名は「ハイドランジア」――水を湛えた器――って意味があるんだ」
濡れて艶やかになる様を愛でる花。
「ああ…だから紫陽花は雨の日が似合うんだ」
ってくるくる傘を回す後姿に俺が応えたら。
「――そうか。コノルンと同じだね」
颯君の表情を確かめたいのに、傘で隠れてるのが少しもどかしい。
「どうして俺が紫陽花なの?」
「――」
振り返った颯君は、霧雨の中で急に自分の差してた傘を畳み始めて。
「――此処道が狭いから」
ちょっとだけ入れて?と、俺の傘の中に入ってくる。
視線がぶつかると。
寒いと思ってたのに、急に体温が上がったのがはっきり判った。
「なあ…どういう意味だよ」
俺の問いに困ったように視線を外した颯君は。
「俺さ。どうしてか良く判らないんだけど、雨の日になると…コノルンを思い出すんだ」
「――俺は…」
締め付けられるような想いで。傘を外して、小道に落とした。
「こんな冷たい雨の日じゃなくても。颯君の事考えてる」
「――」
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