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昨日の仕事上がり。
通りに出ようとしたら、後ろから追いかけて来た颯ちゃんに突然呼び止められた。
「アイダちゃん――お願いだから。何も言わずに今晩メシ付き合って」
どうしたんだろう颯ちゃん。
斜め掛けしてる革のメッセンジャーバッグのストラップをぎゅっと握り締めて。
凄く真剣な顔してるから。
別に用事が無かった俺は。
「――…うん。いいよ?」
って頷いた。
颯ちゃんの硬かった表情はちょっとだけ緩んだから。多分断らなくて正解だよね?
地下のビアバーに続く狭い階段には、天井から壁から、色んな国のビールのラベルが隙間を埋めるみたいに重ねて張ってあった。
テーブル席が一杯だったから、カウンターに並んで座る。
二人で片肘を着いて向かい合って。まずはヴァルシュタイナーの小瓶で乾杯。
「で?如何したの、颯ちゃん。何だかスッゴイ、思いつめてるみたいに見えるけど」
「――俺。こないだコノルンと雨の日に出かけたんだけど」
ルン君と?――そんな事二人とも全然言ってなかったよね?
「それでね?――俺、告られたけど。笑って誤魔化して、逃げた」
ずるいとは解ってるんだ。でもさ…。
「――無理なんだ」
だって俺…。
って言ってから、周りに聞こえないように俺の耳元に口を寄せる颯ちゃん。
端から見たらきっと、俺達チークキスしてるみたいに見えるよね。
「――すきだよ」
小さな声で突然。耳元で囁かれた。
「――え?」
俺のこと?
だって。
俺はルン君のことが…。
「――ね?突然さ、こんな風に言われたら。どうしていいか解んなくなるだろ?」
「酷いよ颯ちゃん。俺で試すなんて」
って怒ったら。
「酷いのはアイダちゃんだよ」
颯ちゃんは少しアルコール入って潤んだ瞳で、頬杖をつきながら俺のコト見つめてきて溜息をついた。
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