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唇の柔らかい感触を楽しんでた指先を離したら、かわりにそっとキスで触れてみる。
「ん…」
目の前の瞳は、意識を快楽に委ねるために閉じられるから。俺もゆっくりと、唇を舌先で辿っていく。
「は…」
甘く吐息を漏らして薄く開いた唇をこじ開けるように、舌を忍び込ませた。
アイダさんは素直に唇を開いて俺を受け入れてくれたけど。まだ戸惑うように強張ってる舌に気づいたから。
誘うように舐めて、絡めていく。
「ん…ぅ…」
恐々と背中に回ってくる両腕に気づいて、きつく舌を吸い上げた。
ぎゅ、って、俺のシャツの背中を掴み絞められて。
濡れたキスの音を聞きながら。アイダさんの口を容赦なく貪る。
「…は」
最後に優しく唇を吸いながらキスを止めたら。
アイダさんはは小さく吐息を漏らして身体を離すと、潤んだ瞳で俺を見つめてきた。
つぶらでつやつやとした色の薄い瞳の中に、俺が映ってるのが見える。
瞳の中の自分と向き合って。
手を伸ばして、柔らかくアイダさんを抱きしめたら。胸の中に落ちてきた身体は小さく震えてたから。
腕の中に閉じこめたまま、俺は動かなかった。
息まで震えてるアイダさんの身体から、緊張が解けるまで。アイダさんの呼吸と俺の呼吸が重なるのを待ってる間。
腕の中に抱いた温もりに、俺も瞳を閉じて、心地よさに浸った。
「アイダさん。俺のこと…好きか?」
目を閉じたままでしか尋ねられない自分の心の弱さ。
「すき」
小さい声だったけど、はっきりと応えてくれる。
腕の中から開放したアイダさんの顔を確かめようとしたら。
俺のコトまっすぐに見るアイダさんが居て。
黙ったまま見つめ合う。
初めは。本気になったら自分はどうなるんだろう、と思った。
無条件に愛されるのは怖くて。
失った後の事を考えるのも怖かった。
だけど。
それでもいいから、今はアイダさんの心に溺れてみたい。
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