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あの時は。もうサクラは散り果てて、葉桜になってた頃だったかな…。
「――ゴメンねサトリ君…。今の聞かなかったことにする――でも俺達。ずっといい仲間だから、ね?」
颯君が、眉尻を下げたあの子犬みたいな顔で困ったように問い返したのは5年くらい前。
あの時は。これが最後の恋になればいいって思う程、俺は真剣なつもりだったのに。
颯君はやんわりと。
でもバッサリと俺の心を斬って棄てた。
『ゴメンなさいなんてしておいて、平気な顔して付き合えんのかよ』
俺は何も言えずに戸惑ったけど。
でも本当に言葉通り、颯君は相変わらず俺のどうしようもないフリに色々リアクションしてくれるし。
ふざけてじゃれついても、変わらずやり返してくるから。
繰り返していく日常の心地よさだけで満足して。
いつの間にか俺は、
颯君に告白した事、
忘れてたのに。
――それを嫌でも突然思い出すきっかけになったのが。
『サトリ君。金曜の夜空いてる日、ない?』
3月末に突然来た颯君からの電話だった。
「金曜日…?」
颯君と入れ替えでドラマ撮りの始まった俺は、慌てて頭の中のスケジュール帳を繰り出して。
「えーと…――今週末なら。いいよ?」
俺は一瞬の内に、仕事以外の色んな予定を無理矢理にでもキャンセルすることに決めた。
『うん。後で待ち合わせ場所の地図メールするね?ちょっといい物見つけてさ。サトリ君に見せたいって思ったから』
嬉しいというより、俺は何だか落ち着かない想いのほうが強くて。
『じゃあ。金曜に』
最後まで穏やかだった颯君の声が。やけに耳に残った。
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