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4月の某金曜日。
約束した日からたった2、3日すら俺は待ちきれない思いで居たから。
待ち合わせは何時もなら時間ギリギリに行き着くように移動することが多いのに、その日は約束の30分も前に指定されたメトロの駅に着いてた。
所謂オフィス街の駅だから。
この時間は家路を急ぐスーツ姿の人々が次々と地下へ吸い込まれてくる。
それを次々かわして、メトロの出口まで俺は階段を一段飛ばしで一気に駆け上がった。
少し風の強い夕暮れ時の景色を見渡せば。
花曇りの赤みがかった灰色の空の下。ジャンクションの入口や皇居の堀が目の前に見える。
こんなトコロで待ち合わせなんて。
颯君の真意を測りかねてたら。
「あ!――サトリ君。ごめん、お待たせ…!」
俺と同じく階段を駆け上がってきた颯君が、隣に立った。
少し息が上がってほんのり頬が染まったその横顔に簡単に心奪われて。
一瞬俺は言葉を失う。
何か応えないと。
「――全然…待ってないよ?今着いた処」
「そうなんだ。俺もさ。――何か待ちきれなくて。早く来ちゃった」
なんてやっぱり笑いながら。
「閉館時間までちょっと余裕できたね」
「閉館時間?」
「うん?――じゃ。行こうか?」
颯君の左手が俺の右手を掴んだ。
その冷たさに戸惑って。
「颯君?」
声を挙げたら。
「ゴメン!」
引っ込めるように冷たい手は直ぐに離れた。
違うよ、ホントは握り返したかったのに。
上手く伝わらない心が。
もどかしかった。
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