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「じゃ…名残惜しいとは思うけど。次、行こっか」
俺は中々その場を離れようとしなくて。
気づいたら30分以上同じ絵の前で近づいたり離れたり。右に行ったり左に行ったり。立ち止まって眺めたりしてた。
そんな俺を、ずっと颯君が離れた処で見守ってくれてるのが解ったのも心地よくて。
ホントはあと少し、って思ったけど、
「ゴメン…時間押してるよな」
折角の颯君のプランを壊す訳に行かないしって言ったら。
「え?――ああ。平気平気。次のところも、見る作品一つだけだから」
にっこりと満足そうな笑顔の颯君に俺が返したのはきっと苦笑いだ。
「颯君やっぱり…美術館鑑賞向きじゃなくねぇか?」
びっくりして見開かれたくりくりの瞳が、俺を捕らえた。
「え~!!どして!?」
「――出来れば全部回ってから、お気に入りのだけ最後に見るようにしないと。他の作品がかわいそうだ」
俺もエラそうな事言える程鑑賞したことないけど。
やっぱり展示されてる作品達は、作家の想いが詰まってて、見てもらってこそ価値があるんだと思うから。
うんうん、と颯君が頷きながら、
「作品が可哀想、か。サトリ君らしい。――でも大丈夫。次のところ、実は全部見ても1時間はかからないんだ。…此処はまた。今度ね?」
さりげなく言うのは、次のデートの約束だったりするか?
――なんて俺、夢見過ぎだな。
外へ出たらもう流石に外は真っ暗で。颯君は更に公園の中の方に腕を伸ばして行く手を教えてくれた。
「ここから5分くらい行ったところにね?2階建てで凄く小さいんだけど、『工芸館』て言う近代美術館の分館があるの」
其処に俺の大好きな人が居るから、どうしてもサトリ君に会ってほしくて。
なんて、何故かイタズラそうに笑ってる。
「え…?颯君の大好きな人?――誰?」
「ナイショ。…って言っても、行けば直ぐ解っちゃうけど」
やっぱり、デートの約束な訳無かったか…。
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