サクラドロップス(サトリ×颯)

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ちょっとした洋館みたいな建物の造りをしてる『工芸館』は。 リサーチ好きの颯君によると。 「もともとは明治時代の陸軍近衛師団の建物をそのまま使ってるから、美術館の建物自体価値があるんだって」 「そうなんだ」 俺はさっきの颯君の言葉が気になってずっと上の空だったから、 「サトリ君!ここだよ!」 横に並んで歩いてたはずの颯君が後ろから呼び止めるまで気がつかなくて。 「――ゴメン」 「どうしたの?サトリ君、何かさっきから変…」 「…なんでもねぇよ!!」 心配そうに覗いて来る颯君の肩をぐいっ、て押し返す。 今の俺の顔。 見られたくない。 手をつながれて驚いたり。 絵を見せられて泣かされたり。 好きな人のこと聞いて動揺したり。 ――俺をこんなに弱くしたのは颯君のせいなのに。 「…ゴメンね?」 「なに謝ってんだよ。早く会いに行くんだろ?」 好きな人に。 って口にする俺のココロの痛みなんか知らない颯君は。 「うん!行こう行こう」 チケットを買って直ぐに翔君は木の階段を軋ませて階上へと急ぐ。 もう閉館まで1時間くらいだったから。俺達以外客は居なくて。 「昼に来た時結構人がいたんだけど。週末でもこの時間って穴場なんだね」 なんて言いながら颯君が開けてくれたドアを恐々通って展示室に入ったら。 作品を光で傷めないように薄暗くした部屋の中に、ガラスケースが並んでいて。 そのうちの一つに颯君が近寄った。 「――彼はね。『桜梅(おうばい)の少将』って言うんだ」 コレが俺の、好きな人だよ。 って紹介してくれた。 「――人形?」 「そう。人形。――何処となく、サトリ君に似てるよね?」 俺は自分勝手に盛り上がってたのが、急に恥ずかしくなった。
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