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いつの間にか地下鉄の終電も終わってる時間。
「サトリ君。また歩くけど…いい?」
颯君が差し出す手に黙って手を委ねたら。
決めてる目的地があるんだろう、俺の手を引いて歩き出す。
週末深夜の大手町のオフィス街は、規則正しく信号が変わるだけで車も人も通らなくて。
世界に二人しか居ないんじゃないかって錯覚させられるくらい静かなのが、悪くない。
永遠に続くんじゃないかって静寂は。東京駅近くのタワービルの裏口で終わった。
「今日待ち合わせの前に、チェックインしておいたんだ」
って、颯君がパネル操作したエレベーターでたどり着いたフロア。
人影はないけれど、歩いたら足が沈むくらい高級な絨毯が敷いてある。
俺でも知ってる。「季節」の名前が付いてるあのホテルだった。
「――颯君…準備良すぎ」
ここまで据え膳か?って俺は戸惑う。
「――そう?パレスビューの部屋もう無くて残念だったけど…」
カードキーでエントリーして入った部屋。
「――風呂先に入っていい?」
「どうぞ」
俺はバスルームに逃げ込んで、明らかに高鳴ってる胸を沈めたくて、温度を下げて水圧上げてシャワーを頭から被った。
交代して颯君がシャワーを浴びてる間。
丸の内のオフィス街を見下ろしてたら。
スカイラインが無機質な美しさで佇んでたから、少しだけココロが落ち着いてくる。
「――今日は、颯君に沢山キレイなもの見せてもらった気がする」
「サトリ君が満足してくれたなら、俺も嬉しい」
いつの間にか隣に立っていた颯君と二人でターミナル駅の玩具みたいな列車を窓辺で眺めた。
「――ね」
キスして?なんて、颯君が隣から強請ってくる。
颯君に唇を舌で辿られて。
中々乗らない俺を颯君からリードして誘ってくるのは、普段と変わらないんだね。
「――知らないよ、どうなっても」
折角決まったと思った台詞も。重ねた唇が震えてるのを気付かれる。
「もしかして緊張してる?サトリ君」
颯君が俺の首に腕を絡めてくるから。腰を抱きしめて舌の先から唇の中に這入ってく。
溶けあいそうな、キス。
くちゅ、って唾液が交じり合う音が聞こえる。
「…んっ――は…」
一旦離した唇から糸が引くのが見える。
目混ぜしたら、視線も溶け合う。
そのまま颯君に伸し掛かって倒れこんだら。
重なりあう身体の重みで軋むベッドの揺れは、もう頭の中まで火照ってる俺を、更に眩暈でくらくらさせた。
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