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それ以来、陸上が楽しくなった。400m走の休憩中、100m間を疾走する佐弓先輩の走りを眺めているだけで、僕も速く走れそうに感じた。
佐弓先輩に元気を貰った感覚だった。
部活が終わり、テニス部の友達を呼びに行く。
テニスコートは陸上トラックの隣にあった。
「田中、帰ろうぜ」
友達は佐弓先輩と同じ名字の『田中』だ。何ともいまいましい。
「お前さ、最近恋でもしてんの?」 田中のいきなりの問い掛けに心臓が跳び跳ねた。「何だよ…恋愛とかしてる暇無いからね」
咄嗟に言ったが、心にもやもやがあるのに気付いた。
「そうか?ずっと最近佐弓先輩ばっか見てるが」
図星だった。廊下で佐弓先輩とすれ違う度、目を外すことが出来なかった。
最初は陸上部にいる『走る佐弓先輩』を見ていた。
でも最近は『佐弓先輩』そのものを見ていた。
「お前佐弓先輩の事好きなの?」「綺麗だけど…好きではないね」
僕は自分が情けなかった。
幼稚な嘘をついてまで隠すことでは無かった。
僕は佐弓先輩が好きだ。初めて本気でそう思った。
初めて誰かを好きになった。
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