第1-3章 刑事

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  その身を赤く染めた太陽が遥か西方の箱根の山々に沈みかけた夕刻、 東京都世田谷区にある警察署の刑事部捜査第一課では、既に初老の域にさしかかった1人の男が、めずらしく定時に帰宅しようと、その日の最後の仕事である報告書の仕上げに取り掛かっていた。 彼の名は飯山勝彦。 現場叩き上げの彼は、刑事としてはベテランの部類に属し、これまでに何件もの難事件を解決してきていた。 そして、その日は長年連れ添った妻の誕生日だったため、予約していた誕生日ケーキを駅前の洋菓子店で受け取り夕食の時間までに家に帰る予定だった。 職場はいつものように、帰宅組が帰り支度をするこの時間帯特有のあわただしさに包まれていた。 プルルルル、プルルルル・・・ その喧騒に紛れて、1本の電話が鳴り響いた。      
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