序 章 真夜中の急患

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「・・・しょ、正直僕も全体像を把握しきれてはいないのですが、原因はやはり・・・あの“被験体”かと」 瀬能がそう言うと、二人は再び病室のベッドに横たわっている少年に視線を戻した。 「“被験体”・・・か。ということはやはり実験中の能力の暴走によるものか、一体どのような実験をしていたのかね?」 羽加川は瀬能をジロリと睨みつけながら言う。 瀬能は羽加川から視線を逸らし、いまだ覚束ない手つきで近くのソファーに置いてあった鞄の中から一冊のファイルを取り出すとそれを羽加川に渡した。 「“悪魔複製計画-デビルズレプリカ-”、確かこれはまだ企画段階である“暗闇の五月計画”に先立つ計画だったね」 「は、はい。がが学園都市第一位である“一方通行-アクセラレータ-”の“自分だけの現実-パーソナルリアリティ-”を被験体に最適化させ、ど、同様の演算パターンを行使させることでいずれは第二の“一方通行”を造りだそうという計画ですが・・・,」 瀬能はそのままソファーに腰を下ろし、頭を抱えながらほとんど呟くように言った。 「・・・それで、被験体の脳には適合することができず能力の暴走につながったと、そういうことかね?」 羽加川は依然として手厳しい視線を瀬能に向けながら言う。 「え、ええ・・・。しかし、それだけが原因とは思えません。実験前に何度もシミュレートしましたし、つ、“樹形図の設計者-ツリーダイアグラム-”だって使ったのに!!!」 「だが、“事故”は起こってしまった」 「ッ!?」 羽加川の厳しい言葉に瀬能は口を噤んでしまう。 「・・・瀬能君、いくら想定外の“事故”と言っても、・・・いや“事故”で済まされるものなのかも怪しいね。異常な問題だよ、これを見たまえ」  羽加川は胸の内ポケットから数枚の写真を出して瀬能に渡した。 「衛生から航空写真だ。被験体が倒れていた所を中心点にしてそこから半球状に半径1km圏内にあったものは全て消失している。もちろん研究所にいた所員や他の被験体も残らず、だ。居住区に遠かったのは幸いだったな。もし民間人を巻き込んでいたら大変だったぞ?」 いや、これでも充分過ぎるほど大問題なのだがな、と付け足して羽加川までも頭を抱える。
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