序 章 真夜中の急患

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写真には、不自然なほどに地面が綺麗なドーム状に抉れた情景が写っていた。 下水管や道路のアスファルトなどもドームの軌道に沿って明確に切断されている。 切断された下水管からは排水がドームの中に垂れ流しになっていた。 「一体この被験体はどんな能力者だったんだ?一瞬で消失させたとなると“空間移動能力者-テレポーター-”か・・・。しかしこれだけ広範囲にわたり、それに「ち、違います」 羽加川の言葉を遮って瀬能が言った。 「あ、あの被験体の基盤となる、の、能力は“念動能力-テレキネシス-”です」 「“念動能力”だと?そんなバカな、そうだとしてもこの現象をどう説明すると言うのだね!?」 羽加川は驚きを隠せない様子で少し強めの口調で言った。 瀬能は続けて震えた口調で言う。 「お、おそらくは実験は一時的に成功し、第一位の“自分だけの現実”は被験体に部分的に適合したのではないかと・・・。そ、そして暴走に伴い本来ならベクトル操作の計算が行われるはずだったのが、念動能力系におけるより難度の高い複雑な計算が行われた」 「その、より難度の高い複雑な計算とは・・?」 「そ、それは・・・,」 瀬能が次の言葉を発そうとした時、特別隔離室のドアが開かれカエル顔の医者が現れた。 そのカエル顔の医者は通路にいた二人の前まで歩いてくるなり口を開く。 「ひとまず一命は取り留めた。だが、脳に異常なほどの損傷が見られるね。記憶障害や、生活には支障は出ないだろうが、能力発動のための複雑な計算はしばらく厳しいだろうね」 羽加川と瀬能の二人の容姿を爪先から頭まで見てからカエル顔の医者が言葉を続ける。 「見たところ、君達は科学者のようだね。患者の背景にまで関わることはあまりしたくないんだが、君達学園都市の科学者の勝手な実験で子供達を危険な目に合わすのは如何なものかね?こうやって、僕のところに運び込まれてくる子供は少なくない・・・。それに今日の子は非常に危ない状態だった」 医者は窓の向こうで未だ眠り続ける少年を見ながら厳しい顔をして言った。
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