序 章 真夜中の急患

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羽加川は医者の言葉に顔をしかめて反駁するように口を開く。 「“冥土返し-ヘブンキャンセラー-”。あなたの腕は我々も理解しているつもりです、統括理事会もあなたの医療技術は重宝しています。しかし、あなたはいらぬことに首を突っ込みすぎる。たとえ不幸な事故にあったとして、天罰が当たったと思われても文句が言えませんよ?」 羽加川が“冥土返し”という医者にむかって嫌味っぽく言い放った。 すると、その言葉に冥土返しもまた顔をしかめる。 「まさか科学の最先端を進む学園都市の科学者から天罰などと、オカルティックな言葉を聞くことになるとは思わなかったな」 仕返すように冥土返しも羽加川に対して皮肉を言ってみせると、羽加川は一旦驚いた表情をしてから憎らしそうに冥土返しを睨みつける。 初老の男性の表情に瀬能はあたふたと焦りながら、冥土返しと羽加川の顔を交互に見比べている。 「・・・とにかく、あの少年の意識が回復し退院できるようなら統括理事会までご連絡いただきたい!」 そう言うと羽加川は、行こう瀬能君、と中年男性を促して冥土返しに背中を向けて歩いっていった。 誰もいなくなった通路で冥土返しは病室のベッドに横たわる少年に目を向ける。 体中に包帯をまかれ、頭からは電極、左腕からは点滴用のチューブが伸び、呼吸補助用の酸素マスクが口についている。 その様相は非常に痛々しく、ついつい目を背けたくなってしまう。 しかし、彼は目を背けずに静かに呟いた。 静寂と暗闇が支配するその空間に彼の声だけが浸透する。 「“失敗作”・・・か」
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