月夜のある晩

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 ある夜のことだった。  一人の男が煌々(こうこう)と明るい月夜の晩に帰っていた。  理由は知ることはないが、とかく、何かの用事で遅くなったのだろう。男は帰り道を急いでいた。  途中、男は道の真ん中に光るものが落ちているのを見つけた。なんなのだろうかと思い、手を伸ばそうとしたが、 「いかんいかん。今日は早めに帰らなければならないんだった」  そう言って帰り道を急いだ。  落ちているものは実は値打ちのあ古い金貨だった。付近に住んでいる貨幣収集が趣味の老人が、自分の歯と間違えて投げてしまったのだった。  男の家はあまり裕福ではなく、それを売れば大金になるのに、そうとも知らずに帰り道を急いでいた。  すると、「やや」道にまた何か落ちているのを見つけた。  今度は一枚の紙切れだった。なんなのだろうと手を伸ばそうとしたのだが男はぐっとこらえて、 「いやいや、今日は早めに帰らなければならないんだった」  そう言って帰り道を急いだ。  実は落ちていたのは宝くじの一等の当選くじだった。その時の一等は1憶で、男にしては大金だったのだがそんなことは知らずにすたこらさっさと帰り道を急いだ。  男が帰り道を急いでいると今度は電柱に人がうずくまっていた。髪が長く、横顔が綺麗な女の人だった。どうしたのかと声を掛けようとしたのだが、男はぐっとこらえて、 「いかんいかん。俺にはきちんと女房がいる。ここで声を掛けたら気があると思われてしまうじゃないか」  そんなことは多分万に一つもないと思うのだが、それでも男は用心して、女の人を無視して帰り道を急いだ。  実はこの女の人、都市伝説で有名な口裂け女だったのだ。急いでいる男を声を掛けてきたときに食ってやろうと待ち構えていたのだが、そんなたくらみが外れてしまい、口裂け女はすごすごと住処(すみか)に帰っていった。  さて、そろそろ家が近くなってきたところに男の目の前に老人が現れた。 「男の人、止まってください」 「なんですかあなたは。私の家はもうすぐなので、早くそこをどいてください」 「まあまちなさい。私はじつは仙人でな。お前さんの無欲さに感動した。道中に落ちていた金目の物にも目をくれず、一心不乱に道中を走ったその感覚にあっぱれじゃ。どうじゃ、わしの所へやって来て仙人にならんか」
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