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「そこの、何をしている?」
警戒心丸出しの言葉がエナの口から大男に向かって飛び出す。
これはエナの悪い癖だ。
エナは幼い頃から初対面の人には高圧的な態度を取ってしまう癖があった。
性格上の都合だ。
エナは厳格な父の影響を受けて幼い頃からも妙に大人びていた。
その性格を小等部の頃にからかわれ、エナは意固地になってしまってそれっきりなのだ。
無論、上司には気を付けてはいるが。
当の大男は、自分が話し掛けられると思っていなかったのか、その異様とも言える広い肩幅がビクッと跳ねて恐る恐るといった感じでこちらを振り返った。
その容貌だけを言えば雁首揃えて皆が皆『悪人』と答えるだろう。
癖の強い黒色の髪の毛はオールバックの様。
目付きの悪い瞳はまるでオオカミのような眼光を纏っているようだ。
更に、ただ大きいだけではない。
その全身筋肉のような体は、良く鍛えられていると一目でわかる。
着ている黒いスーツがピチピチだ。
だが、エナは臆しない。
前述した通り、エナは正義感が強い女性であった。
「あなた、掲示板に何か貼ったわね? 掲示板は一般人が勝手に使ってはいけないのよ。」
「あいや! そうでしたか! これは申し訳ございませんな。」
依然として高圧的な態度のエナの言葉に対し、大男はその熊みたいな大きな右手のひらで自らの額を『びたん!』と叩き、直ぐ様自分が貼ったであろう貼り紙を剥がしにかかった。
大男は見た目と反して物分かりの良い人間だった。
そのことに、エナは、
(人は見掛けによらないって言うものね。)
先ほど見掛けだけで判断した自分を戒めた。
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