560人が本棚に入れています
本棚に追加
「はぁ、はぁ、はぁ……。」
クロダはこの上なく鼓動が速くなっていた。
決して激しい運動をしていたわけではない。
クロダは見た目だけで言うならば、20代後半に見えるが、実際のところクロダ自身にも自分の正確な年齢は知らなかった。
クロダが今いる場所はとある高層マンションの一角にある部屋だ。
夜の真っ暗な部屋を照らすのはカーテンの閉められていない窓から差す月光のみ。
決して高級マンションというわけではない。
パーティーを開くとしたらリビングには七人が限度。
八人目の人はキッチンへと押し出されてしまうだろう。
だが、一人暮らしをするには充分過ぎるほどだ。
クロダは右手に持っている黒光りするものを『チャキ』と音を経てて構えた。
それは拳銃だった。
一般市民は拳銃を持ち歩くことはもちろん禁止されている。
ライセンスを持っていれば別の話し、だが。
クロダはもちろん拳銃のライセンスなんて持ってはいない。
ましてや拳銃を握るのはこれを含めて数回しかないのだ。
クロダの持っている拳銃の種類は軍隊も世話になっているというアイダ製のコルトアナコンダというものだが、クロダはそれすらも知ってはいないだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ……はは、ははは、はは、あははは!」
クロダは笑った。
その静寂を打ち破るには充分過ぎる笑い声が部屋を包み込む。
「これで終わりだ!」
終わりだ。
そう、終わるのだ。
この拳銃の引き金を引けば、クロダの成し遂げたいことは終わるのだ。
目の前には初老の男。
クロダが殺したくて殺したくて仕方がない男!
今日この日、その夢が叶うのだ。
そして、クロダは、
「死ね!」
───引き金を引いた。
最初のコメントを投稿しよう!