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引いた。
引いてしまった。
クロダは拳銃の引き金を引く瞬間に、当然と言うべきか目を瞑ってしまっていた。
やがて、拳銃からは何かが破裂したような爆発音が鳴り響き、クロダの鼻に硝煙の臭いが届いた。
「(終わった……。)」
だからこそ、何もかも脱力仕切った体でクロダが目を開いて見た光景に思わず目を疑ったに違いない。
「いけませんねぇ。ご老体にこんな物を向けるなんて。」
「なっ!?」
なんとクロダと初老の男性の間に、男が割り込んでいたのだ!
男の身長は190……いや二メートルに届くかも知れない。
その胸板は筋肉ではち切れんばかりに脹らみ、肩幅も着ているスーツが小さいと言わんばかりに張っている。
その顔は岩石から無骨に掘り込んだような厳つい強面で、サングラスをかけている。
髪型は短髪、しかしオールバックにしているため、より一層その強面を引き立たせている。
だが、クロダが驚いたのは男が突然現れたことではなかった。
なんと割り込んできた男はその熊みたいな巨大な手の平で拳銃の銃口を覆っており、更にその手の平は傷一つ付いていないのだ!
「素人が拳銃なんかをどうやって仕入れたか知りませんが、私には関係ありません。」
巨大な男はそう腹の底に響くような低い声で言い、クロダから拳銃を取り上げると、
バリガリベキャ
拳銃を両手ですっぽりと覆ったと思ったら、その拳銃を力任せに握り潰したではないか。
クロダはまったく目の前で起きていることが理解出来ずに目を白黒させているだけ。
一方、巨大な男は初老の男性の方に向き直り、初老の男性の両肩に手を置いてこう言った。
「じいさん。今回は初仕事ってことで無料だ。安心してください、あなたを“生かし”ますから。」
巨大な男は初老の男性にそう言うと、改めてクロダの方に向き直る。
クロダは半ば恐怖心で正気を失いかけているのにも関わらず、問わなければならないと思った。
「だ、誰だアンタ!」
「私かい? 私はね……どんなことをしたヤツでも、生かすこと約束する。」
そして巨大な男はその強面に笑みを浮かべてこう言った。
「私は『生かし屋』だ。」
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