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「主上、ここまで来れば、大丈夫にございましょう」
「朕が臣下は、みな死んだか」
「親房が、おります」
「お前の他は」
「さあ」
親房が文を取り出した。長い間懐に入れたまま自分を担いで山道を駆けてきたせいか、くしゃくしゃであった。
「これは?」
「遺書です、顕家の。昨日の晩のうちに夜もすがらで綴っていたようで、畏れ多くも主上に奏せ、と」
後醍醐はその青年が書いたという文を受け取った。顕家とは、何度か九重で会ったことがあった。居並ぶ公家のうち、誰よりも彼は若かったが、誰よりも厳しい目で自分を見ていた。
――分かっていた。そのくしゃくしゃの書状にどんなことが書いてあるのか。正成が口に出さなかったこともそこには書いてあるだろう。高氏が自分を討たんとしている理由もそこには書いてあるだろう。民の思いも、そこには書いてあるだろう。――分かっていた。が、分かろうとしなかった。自分には誇り高き血が流れている。そう思って、生きてきた。延喜天歴の治は遠かった。この吉野の地と京よりも、ずっとずっと自分からは遠かった。吉野は、風が強い。
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