ハーデンベルギア(前編)

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  「先生さよならー」 放課後、ピンク色が混じった空。 「バイバイ沙彩ちゃん」 私の席まで来て声を掛けてくれた白雪さんは、先に教室を出る。 一度こっちを振り返る彼女は、眉を垂らして捨てられた子犬のような顔。 けれど私が手を振り返せば、眩しい笑顔が向けられる。 ……下まで一緒に行けば良かったかな。 まぁ……いいか、と手提げカバンを肩に掛けると、私も教室を後にした。 途中、後ろで1つに縛った髪をほどいて、ピコンと跳ねる毛束を結い直す。 そこまで重力に逆らう理由はなんなんですか? 当たり前だけど返ってこない答え。 余計にやきもきして、悪循環。 ――チャ 暖かいのと冷たいのが混ざった風を頬に受けながら、正門を出た私は携帯を開いた。 「爪を噛む心理……これだ」 便利な世の中、分厚い辞書を捲らなくても簡単にさがしものが見つかる。 それなのに、自分が生きている価値とか意味を教えてくれるページは見当たらない。 やっぱり、自分で探せってことか……。 見つけ方が分からないのにどうすれっていうの。
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