夏草

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私は、年配者でもないが言いたくなる。 --いい若いもんが何というざまだ と。 子どもに呆れられても仕方ないだろう。 むしろ、彼らの方がずっと有意義に生活している。 …本当に、何もしない奴だ。 せめてあくびぐらいしてみろ。 私は、この青年にしばらく前から憑いていた。 私は、生きている人間には見えないが意識を持っている。 正直、死んだ実感もあまりなく、ただ日々を過ごしていた。 漂うように。 世間一般のイメージのように、誰かを怨念で苦しめるなどはしたこともない。 自分では、無害な霊だと思う。 死んだ事に不満はないから。 身よりもないし、親しい友人もいない。仕事は適当に処理することで、目立った評価もされてない。 …少し暗い奴だったかもしれない。 かといって、趣味も特にない。 休日は、よく散歩していた。 歩いていたら、車に轢かれていたらしく、気づいたらこの通り。 確かに、我が人生は終わったのだが、生きていた頃と大差ない状態だった。 生きていた頃が、死んだような人生だったかもしれない。
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