夏草

6/8
前へ
/50ページ
次へ
背中に生えたきのこのような毎日での収穫は、背中の主が何者か知った事だった。 奴は二十代前半の青年。 名前も勿論あるが、名前など勿体ないような奴だ。 だが、あまり“奴”という言葉を多用するのもどうかと思うから、呼称を青年とする。 青年は学生でもなく、働いてもいない。 独り暮らしで、友人も恋人もいない。 親とも疎遠らしい。 たまに外出はするが、目的を果たしたらすぐ、四畳半のアパートに帰っている。 目的といっても、精神病院に通って、食糧を買うぐらいだ。 分裂…いや、統合失調症というのか。 青年の病名らしい。 しかし、背中のきのこみたいに引っ付いているが、変な独り言や、暴れるなどは見たことがないがな。 これが、病気といえるのか? まあ、無気力さは病的だが。 病院で、青年は自分の病状がいかに辛いかを滔々と語る。 そして、適当な所で話は医師に打ち切られ1ヶ月分の薬が出る。 そして、銀行に行って金を下ろし、食糧を買う。 青年は少食らしく、両手に持てるくらいの食糧で1ヶ月過ごすのだ。 病気の影響か薬の副作用か分からないが、腹が減らないのだろう。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加