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平手じゃなくて、握りこぶし。
彼女の怒りの尺度はそんなところに表れていたのかもしれない。
いやそれよりも、口より先に手が出る様な女の子じゃないはずだ、なんて言う彼の彼女に対する勝手なイメージを前提とすると、殴った時点で彼女の怒りのレベルは頂点だったのかもしれない。
それはあくまで仮定だが。彼女の真意は彼にはわからない。
人は、わからないのだ。目の前の人が浮かべる表情の裏に何が隠されているかなんて。発せられる言葉の本当の意味なんて。行動に示される真意なんて。
しかし、少なくとも彼が彼女を怒らせる一番の原因となった事ははっきりしている。殴られる謂れがあることはわかっている。
彼女の気持ちが痛いほどにわかっている。すべて自分のせいなのだから。
だからといって、どうすることができようか。
あの時、彼女から目を背けてはいけなかったのか。向き合って、謝り続けるべきだったのか。応援し続けてくれた彼女を裏切ったことを、謝罪し続けるべきだったのだろうか。
――もし謝っても。謝り続けても。
彼女は笑ってくれただろうか。
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