12人が本棚に入れています
本棚に追加
#3倍返し
「ふぁ、…あれ?雪羽?」
ふと目を覚ますと、昨日から朝まで、あんなに愛し合った雪羽の姿が横になかった。
しまった、と思う。
最近仕事や生徒会に力を入れすぎて疲れていたらしい。
開けた携帯の時計が12時を指していた。
「嘘だろ…、今日平日だぞ…」
顔にかかる髪をかき上げながら、今日は休むという旨を秋斗へとメールして携帯を閉じ、適当に服を身につける。
昨日脱ぎ捨てた制服があるところをみると、雪羽も授業に出たワケでもないらしかった。
「つーか普通、俺の方が先に起きるよな…」
どーみたって身体を酷使してンのは雪羽だ。
実際、雪羽はヤった後、気絶するみてぇに眠りこける。
なのにただ腰動かしてる俺の方が遅く起きちまうとか情けねぇ。
「昨日、雪羽の寝顔みながら仕事すんじゃなかった…」
裸のまんまウロウロすると雪羽に風邪引くって怒られるから、下だけでなくちゃんと上もシャツを羽織る。
寝過ぎて痛む頭を擦りながら、心底昨日の自分の行動を呪った。
「でも、雪羽の顔見ながらの仕事って捗るだよな──ん?なんだ、この匂い」
寝室にしてる部屋の扉を開ければ、甘ったるい匂いが鼻を擽る。
自分の服の匂いじゃないことを確認し、その匂いがする方へ向かった。
*
(…そーいうこと、か)
キッチンに向かう雪羽を見ながら、俺は漸く納得した。
この甘ったるい匂いは雪羽が作っているチョコレート。
多分、甘いものでも食べたくなったんだろう。
(言ってくれりゃあ、作ったのに)
そりゃあ雪羽だって中学ン時から一人暮らししててケーキとオレンジジュースしか主食としてなかった(栄養不足は"白銀の羽"の仲間が補っていたらしい)から、そういうのを作るのが決して下手じゃねぇのは知ってる。
でも今は作れる俺がいるわけで。
いるどころか、一緒にすんでいるわけで。
同じ空間に俺がいるのに気付かないほど集中しているあたり、多分チョコ作んのは初めてなんだろう。
ならば遠慮せずに言ってくれたら、望むもの何でも作ってやれるだけの腕も、教えてやれるだけの腕はもっているのに。
(遠慮しちまったんだろうなぁ)
そんな雪羽に言いようのない可愛らしさというかいじらしさを感じるけれど、未だに遠慮する対象であることに若干の抵抗を感じる。
その反抗心で、一切の気配を消して、俺は雪羽に近付いていった。
.
最初のコメントを投稿しよう!