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そっからは、俺も若干スパルタだった。
生クリームの分量、チョコレートの温度、酒の種類。
全て細かく雪羽に指示を出しながら、俺はチョコレート自体には関係ないアーモンドなどの調理をする。
元々菓子類の調理をしまくってただけあって、雪羽もすごく筋がよかったし、特段心配することもないまま冷蔵庫へチョコレートを置く段階までたどり着いたのだった。
「…ふぅ、」
「今のうちに洗い物、しとけよ。
そうすればチョコ切り分けるとこ確保すんのも楽だし、最後の洗い物は包丁とバットだけでいい」
「そーだな!」
首を大きく縦に振って、雪羽はシンクへと向かう。
それを眺めながら、俺もチョコまみれになったテーブルを拭き始めた。
*
「ここ、粉、篩(フル)って」
「お、う!」
数時間待って、冷蔵庫から出したチョコレートを丁寧に切り分けていく。
キッチンペーパーに薄く、小さな円状に並べていった方はもうアーモンドやピスタチオの欠片などを散りばめていたから、そのまま完成品を置く用の箱に並べた。
そして石畳のように切ったチョコレートの上から、ココアをまぶしていく。
「で…きたっ!!」
「お疲れ様、次は洗い物俺がするよ」
「ううん、後でいい」
「え?」
「…食べて」
雪羽は並んだチョコレートの中から1つつまみ、俺の口元にもってきた。
驚いて雪羽を見ると、顔を赤らめながら上目遣いでこっちを見ている。
「この日はいつも、お前、いろんなやつにチョコもらうだろ?
それってすごいうまいし、高くて買えないし、だから、作ったら食べてもらえるかなって…」
「雪羽…」
「でも俺、チョコは市販ですましちゃうタイプだから作り方分かんなかったんだ。
それに、俺が手作りでも薫はパティシエが作ったみたいなすごいのくれるだろうから、そんなのフェアじゃねぇだろ。
だからずっと一緒に作ろうって思ってたけど…薫の寝顔見てたら起こせなくなっちまって…、」
「…できればそのハナシはしないでくれ……」
「?でも一緒に作れてよかった。
だからラッピングいらないんだ、薫が…一番最初に食べてくれたら…んっ、」
俺は雪羽の手を取って、チョコレートごとその指を口に含んだ。
(そうか、今日はバレンタインか…)
「薫っ!!」
「美味い」
「お前が味付けしたからな…」
「でも、実際作ったのはお前だろ」
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