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静かに上がりつつある飛行機は秋空に白い線を残していく。
昼下がりの校庭を眺めていると、運動部の掛け声が聞こえてきた。
復唱される声に同じく口を動かし囁いていると、教室の扉が開いた。
「境介ー。俺は天才だなぁ!」
わざとらしく下げて履いた学生ズボンの裾を地面に摺りながら、ご満悦な夏目孝太がやってきた。
孝太は相変わらずしまりのない口をただ自惚れのお小言のために動かす。
口を挟む隙がないほど喋り続ける姿は、対して話すこともないものの井戸端会議を開く主婦のようにも見えた。
それを俺は頬杖をついたまま黙って聞いていた。
「…で、行こうぜ?今夜!」
「どこに?」
「だからN高の女子らとカラオケ!お前話聞いてたかぁ?」
N高と言えば可愛い子が多いことで有名な女子高だった。
なるほど、それで機嫌がいいのか…。
「うーん……。」
「なぁ行こうぜ!ぜってー楽しいから。どうせ今日ヒマなんだろ?」
「分かった。行く。」
「よっし!じゃあメンバー決定な。放課後飛んでくるから待ってろよ~」
最後まで言い終わるよりも先に教室を出て行ってしまった。
相変わらずせわしない奴だ…。
ため息やら笑みやらを混ぜて、俺は息をついた。
――――――…。
「…でさぁ!その組織ってのがここらへんでも最近またでてきてるらしーぜっ。」
「へぇー、まじか…。最近治安わりーもんな。」
夜となるとさすがに繁華街も人通りが多い。
寄り道中の女子高生やら、飲み屋巡りの会社員…。
前に進むのがやっとだ。
「お、あったあった。あそこの看板見えるか?あのカラオケで待ち合わせなんだよな」
指をさされた先にはカラオケチェーン店があった。
孝太は俺と同じく合コンに誘われた多賀宗一にまた噂話を始めてしまった。
「…-で、明日は珍しく狂うような豪雨にみまわれるでしょう。」
駅前の大きな交差点にある液晶画面。
そこには明日の日付と天気予報が淡々と流れていた。
2月28日…そうか。明日で一年もたつのか…。
二卵生双生児として産まれてきた俺の片割れ。
似ても似つかない境弥。
頭がよくて俺の誇りだった弟。
今はどこで何をしているのだろうか。
明々と点灯する信号に導かれ、何十人もの人間が横断歩道に足を踏み入れる。
生きているのか?それとも、もうあの時には-…
視界が歪みネオン調になる夜の街。
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