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俺はごまかすように顔をあげて大きくため息をついた。
もし生きているとしたら、どんな感じになっているだろう。
…いや、まだ居なくなって一年だ。
そう別人みたいには変わっていないだろう。
きっと街中で出会っても、すぐに分かるぐらいにしか――……
…それは、突如として現れた。
夢か、現か…。
まさか、そんな訳が…。
目の前の光景に俺は息を飲んだ。
一度だけ、目が合ったのだ。
たった今歩道を行き交う人ごみの中に、それは居た。
真っ黒なパーカーのフードを深く被り俯きながら歩いてきた者。
…境弥、だった。
境弥?いや、そんな…。でも、別人と言うにはあまりにも…。
震える呼吸を抑えるように口元に手を当てた。
交錯する脳内の重さに足を止める。
恐ろしくも、少しずつ振り返ってみる。
…が、そこには行き交う人、人、知らない他人ばかり。
境弥は、居なかった。
「…境弥?」
返事は無い。
「お前なのか…?境弥。」
誰も居ない。
「……境弥…っ!!」
「――境介?」
一瞬境弥に呼ばれた気がして振り返ると、そこには不思議そうな顔をした孝太が居た。
「なになに、どうした?誰か居たのか?」
「…こ…孝太…。今…っ」
俺の言葉を遮るように大きなクラクションが聞こえた。
とっくに赤になっている信号を目にして急いで路肩に走る。
対抗歩道を見ても、やはりさっきと同じ姿は見えなかった。
見間違いだったのだろうか…。
「で、どうしたよ?何かすげー焦ってたけど。」
「いや…なんでもない。ちょっと勘違いした」
「そっか?んじゃー行こうぜ。」
孝太は俺の背中をぽんぽん、と叩いて肩に手を回す
少し後ろめたい気持ちのまま、引きずられるようにカラオケチェーン店の明かりに向かった。
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