第一章 「哀愁」

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俺はごまかすように顔をあげて大きくため息をついた。 もし生きているとしたら、どんな感じになっているだろう。 …いや、まだ居なくなって一年だ。 そう別人みたいには変わっていないだろう。 きっと街中で出会っても、すぐに分かるぐらいにしか――…… …それは、突如として現れた。 夢か、現か…。 まさか、そんな訳が…。 目の前の光景に俺は息を飲んだ。 一度だけ、目が合ったのだ。 たった今歩道を行き交う人ごみの中に、それは居た。 真っ黒なパーカーのフードを深く被り俯きながら歩いてきた者。 …境弥、だった。 境弥?いや、そんな…。でも、別人と言うにはあまりにも…。 震える呼吸を抑えるように口元に手を当てた。 交錯する脳内の重さに足を止める。 恐ろしくも、少しずつ振り返ってみる。 …が、そこには行き交う人、人、知らない他人ばかり。 境弥は、居なかった。 「…境弥?」 返事は無い。 「お前なのか…?境弥。」 誰も居ない。 「……境弥…っ!!」 「――境介?」 一瞬境弥に呼ばれた気がして振り返ると、そこには不思議そうな顔をした孝太が居た。 「なになに、どうした?誰か居たのか?」 「…こ…孝太…。今…っ」 俺の言葉を遮るように大きなクラクションが聞こえた。 とっくに赤になっている信号を目にして急いで路肩に走る。 対抗歩道を見ても、やはりさっきと同じ姿は見えなかった。 見間違いだったのだろうか…。 「で、どうしたよ?何かすげー焦ってたけど。」 「いや…なんでもない。ちょっと勘違いした」 「そっか?んじゃー行こうぜ。」 孝太は俺の背中をぽんぽん、と叩いて肩に手を回す 少し後ろめたい気持ちのまま、引きずられるようにカラオケチェーン店の明かりに向かった。
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