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ペトルーシカがすっかり潰れてしまうと、ラッパ吹きは暴れるのをやめました。彼は、変わり果てたペトルーシカの隣に崩れ落ちて俯いたまま、動かなくなりました。
それは、燃え尽きて墜落した隕石のように見えました。うさぎは急に恐ろしくなりました。ラッパ吹きがラッパ吹きではない、全く別の何かにみえたのです。
「お前さん、一体、誰だ?お前さんは、ラッパ吹きだよな?」
うずくまったままの彼に、うさぎはそう問いかけます。ざわざわとしていた村人たちは、もう誰一人、物音一つたてません。
ラッパ吹きの男は、そのひょろ長い腕で、金属の塊を引き寄せました。それはまるで、引力によって吸い寄せられるようでした。
そしてラッパ吹きはささやかな祝福のように微笑みかけ、抱き締めると、流れ星のような最期のキスをしました。
ラッパを失くしたラッパ吹きは、そのまま立ち上がると、言いました。そうです。生まれつき口が利けないラッパ吹きが、生まれて始めて、言葉を口にしたのです。
「やあ、ごきげんよう、うさぎさん。
僕の名は、ペトルーシカ。」
ーはらぺこうさぎと
ラッパ吹きの男ー終
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