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「おうい、うさぎさん。ちょいと話しがあるんだ。」
若い男がうさぎを呼びました。ラッパ吹きに毎朝声をかけている、陽気な青年です。
「やあやあ青年よ。俺たちがあんまり楽しそうなんで、仲間に入れてほしいってか?」
うさぎは冗談めかしてそう言いましたが、青年はにこりともせずこちらを睨みつけていました。冗談が過ぎたかな、とうさぎは思いましたが、青年の目は苛立ちではなく、何かを疑うような目でありました。
「あんたはどうやってラッパ吹きと会話しているんだ?」
青年の問いかけにゾクリと嫌な感じのしたうさぎは、遠くでラッパを吹く男に聞かれることのないよう、小さく答えます。
「お前だって、毎朝声をかけているだろう?」
「確かに俺は毎朝声をかけていたが、会話なんて出来るわけがない。あいつは生まれつき口が利けないのだから。」
「口が利けない?ペトルーシカがいるじゃないか。あいつはいつもそうやって、人と話していたんだろう?」
「ペトルーシカ?」
うさぎは何だか腹が立ってきました。腹が減るのはいつものことですが、立つのはなんと久しぶりのことでしょう。
「毎朝話していたくせに、どうしてそんなことも知らないんだ!」
「お、俺だけじゃないさ!この村の誰一人、ラッパ吹きの言いたいことが分かる者はいやしない。それでも皆、あいつが可哀想だから声をかけてやったり、笑顔で頷いてやっているんだ!どうしてこちらが責められなければならないんだ!」
「か、可哀想って…」
うさぎは言葉を失いました。そして、今すぐラッパ吹きを抱き締めてやりたくなりました。喉が締め付けられる程哀しくもありましたが、うさぎは黙ってラッパ吹きの元へ走り出しました。
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