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「知るってことは重要よ。全ての始まり。最初になにかを知って、それからなにかが生まれる。もし大輔が療のことを知らなければ、なにも生まれなかった。幽霊なんて言葉を知らなければ、きっと幽霊になんて会わない。そういう意味よ」
「……よく、わかんねえよ」
わからない。桜の言いたいことが、なにもわからない。そもそも頭が働いていなかった。ショックが大きすぎるのだ。一度にたくさんの情報が入ってきて、うまく処理できていない。
エラーを起こし続けている。
「……本当は、あの子だけでも先に送ってあげたいんだけど」
独り言のように、桜は言った。
「でも、多分それじゃなんの解決にもならないのよね。療にとっても、あの子にとっても。それに、もし私が無理やり引き剥がしたら、きっとまたどんな手段を使ってでも戻ってくる。それこそ、幽霊なんて可愛いものじゃなくて、もっと、ダメなものに」
ダメなもの。それは最低の意味じゃないんだろう。最悪にダメなもの。桜の頭には、なにが浮かんでいるのだろうか。
「療は療で自分を責め続けるしね。幽霊にまでなって心配してくれてる人がいるのに、夢に出てきてくれるのに、信じないんだもん」
「ーーそれって」
療が言っていた夢に愛刀 夢追が出てきて、療を許しているってのは、真実なのか? 都合のいい解釈じゃなくて、勝手な妄想でもなくて。
「言わなきゃ」
「やめたほうがいいわよ」
「でも! それじゃあいつが……あいつらがかわいそうだろ」
「無理。きっと、大輔の言うことも、療は信じない。だって、大輔は知っちゃたから」
愛刀 夢追のことを、知ってしまったから。
「今なにを言っても、それは同情にしか聞こえない。優しさとしか思われない。いくらそれが真実でも、そこに真実味がない。だって、療は信じてないもの。信じようと思ってないもの。大輔がもっと前に気付いて、療に話していたら変わっていたかもしれないけど、まあ、無理な話よね。知らないと視えないんだから」
「桜は……言わなかったのか?」
「なにを?」
「療に……真実を」
「言った」
答えはたった一言だった。
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