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「でも、無理だった。お話が綺麗すぎた。死んだ友達が会いに来てる。自分を心配して成仏できないでいる。安心して、恨んでなんかいないから。……無理でしょ?」
「…………」
「症状的に言えば、一番重いのは療なのかもね。同じ人殺しでも、私はそれを受け入れて、消化して、その上でどうしたいか考えてるし、おじいちゃんはおじいちゃんでそれなりにトラウマを抱えているようだけど、壊れるまできてないし」
人殺し。そうだ、桜も、人を殺していた。救うために殺していた。だから、”落ちた”。
桜の言うおじいちゃん、柚木 想一郎も、人を殺す体験をしたはずだ。それが直接ではなくても、間接的に殺してきたはずだ。けれど、想一郎が”落ちた”のは、理由が違う。
「幽霊も、愛も、人間から”落ちた”けど、ちゃんとそれを受け入れてる。脚斗さんも、受け入れてる」
幽霊。諸星 零 。彼女も、”落ちた”。けれど、それには理由があった。”落ちこぼれ”でいる理由がある。
愛。彼女は、人に捨てら、”落ちた”。でも、別にそれはすぐ抜けられるはずだ。愛は敢えて”落ちこぼれ”で居続け、その理由も持っている。
「……桜」
「なに」
「俺もさ、”落ちこぼれ”なんだよ」
「知ってるわ」
魔術師から、”落ちた”。なりたくないと言い張った。流れに逆らった。
最下荘は、”落ちこぼれ”が集まる場所だ。そこにいるのだから、そこの住民は間違いなく、”落ちこぼれ”のはずだ。
「魔術師の”落ちこぼれ”なんだよ」
「知ってるわ」
「今年から”落ちた”んだよ」
「知ってるわ」
「ここにいるから、俺は、正真正銘の”落ちこぼれ”なんだよ」
「知ってるわ」
「”落ちた”理由ってさ」
「知ってるわ」そして「だからなに?」
桜は、なにも聞いてくれなかった。
背を向けて、去ってしまった。
背中に語りかけようとしたが、声が震えてうまく喋れなかった。
立ち上がろうにも、全身に力が入らなかった。
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