2232人が本棚に入れています
本棚に追加
「はよ―、大輔」
「うーす」
雨に打たれて表面だけ濡れた鞄を机に置く。和光 明徳の後ろにある景色からは、まだ黒い雲が見えている。お昼までには止むと言っていたのだが、ほんとなのだろうか。
「寒いねえ。衣替えしたばっかなのに。おれブレザー着てきちゃたよ」
衣替えしたと言っても、始まった月の始め一週間ほどは夏服、冬服のどちらを着てきてもいい期間がある。気温の上下が激しい季節だからだ。
明徳がブレザーを脱ぐと、その下は大輔と同じ半袖のワイシャツだった。薄い素材で作られているせいで、その下のアンダーシャツが透けて見える。夏の日に三枚着る必要があるかと疑問に思わないでもないが、今ばかりは羨ましい。
袖がないシャツが無かったため、アンダーシャツすら着てこれなかったのだ。
「もっと暑くなってから衣替えすればいいのにね、大輔」
「笑顔でいうな、そのブレザーひったくるぞ」
「寒くないの?」
「寒いさ。でもクリーニングに出したから仕方ない」
「早くない? 出すの」
「俺の性格上、早め早めに行動しないとめんどくさがって動かなくなるからな。昨日の内に出した」
「それが裏目に出たんだね」
最初のコメントを投稿しよう!