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時刻は始業10分前。あぶねーなどと言いながら教室に駆け込んでくる級友。その中に探している顔はない。一向に姿を見せない友人に、和光 明徳は首を傾げた。
「大輔はまた遅刻かな」
「いや、筋肉痛で休みかも」
くつくつと笑いながら答えたのは大村 司だ。未使魔 大輔の椅子ではなくそのまま机に座っている。笑っている理由は以前筋肉痛で休んだことがあったので、またそれかと思っているようだ。昨日はプールにいったことだし、条件は揃っている。
「いくらなんでも、それはないでしょ。僕だって平気だし、そこまで泳いでないし。あ、電話」
「未使魔からか?」
うん、と頷き、電話に出る。
『おお、明徳か?』
「明徳か、じゃないよ。なにしてんのさ、もうすぐ授業始まるよ」
風邪かと思ったが、なかなか元気な声だ。喉の調子も良さそうで、声は変わっていなかった。
『そのことなんだけどさ』
「うん」
『今日休むわ』
「今日休むわ?」
オウム返しすると隣にいた司が笑った。言いたいことはなんとなくわかっているので代弁する。
「筋肉痛?」
『筋肉痛? ……ああ、みたいなもん』
「ということは違うんだね」
大輔の言葉はとってつけたようなものだった。
『とにかく休む。ああ、でももしかしたら行けるかもな。これが早く終われば』
「なにか用事があんの?」
『ああ』
しばらく待ったが、用事の内容は言ってこない。プライベートなことなのか、くだらないことなのか。判断はつきにくいが、休むことは確からしかった。始業ベルまでもう5分もない。
「ふーん。わかった。先生にはそう伝えとくから」
『サンキュ』
頼むな、と言って電話が切られた。
隣で会話を聞いていた司に内容を伝える。ズル休みか? と司が問うが、明徳は さあ? としか言えなかった。
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