2232人が本棚に入れています
本棚に追加
/246ページ
「あの、ほんとに良かったのですか?」
大輔が電話を切ると、後ろから声がかかった。柔らかく温かい声だった。
「なにが?」
「学校、よろしかったのですか?」
「大丈夫。1日ぐらい」
携帯をポケットに入れて、彼女のほうに向き直る。ふわふわな長髪はピンク、だがそれは納得してしまいそうなほど自然。体つきは華奢で、顔つきは幼い。身長は大輔と同じなのだが、それが不思議なくらいだった。
セーラー服のような作りのワンピースは髪より少し濃いピンク、そこにそれと同じ色したフリルがたくさんついている。
普段街中でもあまり見ることのない服装の彼女は、漫画の中からそのまま飛び出してきたようだった。
「それより。さっさと探したほうがいいかも。まだ幼いんでしょ? その、夏さんは」
「夏でいいです。私も春と呼んでください」
「呼び捨てで?」
はい、と春は言った。実際そうは見えないが、大輔の想像着かないほど年上のはずだ。
その彼女を呼び捨てにするのはどうかと思ったが、あまりに年が離れすぎるともう関係ないのかもしれない。
彼女が言う“幼い”も、きっと大輔が普段使う“幼い”と尺度が違うものなのだろう。
「じゃあ、春。もう一度内容を聞かせてくれ。俺はなんとなく理解できない内容だから」
「はい」
春は深呼吸して、一歩歩み寄ってきた。柔らかい土と、優しい春風の匂いがした。
「夏が迷子になってしまったのです。一緒に探してもらえませんか?」
最初のコメントを投稿しよう!